vol.036 長く愛せる“いいデザイン”とは?
デザインが人に結びついているか“いいデザイン”を見極める着眼点

“いいデザイン”とは、
デザインが“人が使うこと”を目的としていること、つまり、
“人に結びついたデザイン”なのではないか、
というお話を手塚先生からお聞きしました。
では、“人に結びつくデザイン”とは具体的にどのようなものなのでしょう。
長く付き合えるデザインを見つけ出すヒントを求めて、
引き続き手塚由比先生のお宅でお話をうかがっていきます。

01 “いいデザイン”はどのように
生み出されるのか
02 デザインが人に結びついているか
“いいデザイン”を見極める着眼点
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手塚先生のご自宅にて撮影

人に結びつく、愛着の持てるデザインとは

手塚先生がお考えになる“人に結びつくデザイン”とは具体的にどういったものなのでしょうか。
ご自宅や愛用品を紹介していただきながらうかがってみました。

Reason1 デザインに“居心地のよさ”がある

人に結びつく、愛着のわくデザインとは、使う人の生活に心地よくフィットするものであることが大切だと思います。例えば椅子ひとつとっても、おもしろい椅子を作ろうと思ったら変わった形にすればいいだけなので、そういうものを作るのは簡単なんです。でも椅子である以上、座る人にとって座り心地がよくなければ使い続けたいとは思えないし、愛着もわいてこないのではないでしょうか。
私が自宅で愛用しているアルネ・ヤコブセンの代表作「センブチェア」に関していうと、デザインそのものはいたってシンプル。でも、座ってみると、背もたれは材木のしなりを計算した上で厚みが設計されているため、自然な弾力による天然のリクライニング効果を楽しめたり、腰に心地よくフィットするようなだらかに湾曲していたりと、“人”についてとことん考えつくされています。皮膚感覚で“気持ちよさ”を与えてくれるデザインだともいえますね。そうした皮膚感覚の“気持ちよさ”があると、日々の生活のパートナーとして体に自然となじんでくるもの。それが居心地のよさであり、やがては愛着につながっていくのではないでしょうか。住宅に関しても同じことがいえると思いますね。

Reason2 デザインに“豊かさ”が感じられる

私が、暮らしをより豊かにする住宅建築について考えるときに一番大切にしているのは、いかにその住まいで自然環境を“当たり前に”取り入れられ、それを楽しめるか、という点です。私たちの自宅では、屋根の角度をのこぎりの刃のようにギザギザにして傾きの違う天窓をつけ、そこから差し込む、四季それぞれに異なる光を楽しんでいます。こうすると、室内が明るくなるだけでなく、朝昼夜の変化や気候、季節の移ろいなどを楽しむことができるんですね。また、部屋の南北に設けられた大きな窓を開け放てば、家の空気は外の空気と一体になり、心地いいナチュラルな風が吹き抜けます。これも、自然をより身近に、より豊かに感じたいという想いから行き着いたアイデアなんですよ。

Reason3 デザインに“質実剛健”さがある

人々に長く愛されている住まいや日用品には、シンプルでしっかりとした作りの、質実剛健なものが多いように感じます。私たちの自宅には、長さ4m、重さ300kgという特注で作ったテーブルがあるのですが、なぜそんなに重いのかというと、天板の分厚さにあるんですよ。その天板には、薄い樺の無垢材を縦に何枚も貼りあわせ、ミルフィーユ状の美しい断面が見える木材を使用しているのですが、これは見た目が楽しいだけではなく、傷がついても表面を削れば同じ断面が出てきて、長く使えるという利点も持ちあわせたものなんです。質実剛健でありながらデザイン的な楽しさもあるので、この先長く愛用していけるのでは、と思いますね。子供たちがイタズラ書きをしたりシールを貼ったりしても、買い替える必要のないこのダイニングテーブルで、将来、孫たちと食事をするのが私たちの夢です。

長く愛されるデザインに共通するもの、それは“過不足のない形”――

“人に結びつくデザイン”が人に愛される理由として3つのポイントを挙げてみましたが、これらすべてに共通していえるのは「そのデザインに過不足がない」ということだと思うんです。
デザインが人々に与える“居心地のよさ”“豊かさ”“質実剛健さ”は、長く愛用し続けるためには不可欠な要素だと考えることもできるのではないでしょうか。そして、これらのどれかひとつでも欠けていると、何かが物足りないようなデザインになってしまうかもしれません。逆に、機能性ばかりが重視されていたり、丈夫さばかりを徹底したりといったデザインだと、なかなか愛着がわいてこないということにもなるような気がします。
住まいやモノには、それらがあるべき、ふさわしい形があるものだと思います。人々の暮らしに密接に結びつきながら長く愛されるデザインとは、暮らしのうえで余計になるものがついていたり、かといって必要な何かが足りないわけでもない、“過不足のないデザイン”だといえるのではないでしょうか。
また、「よく屋根の上でお茶をするんですよ」という施主さんがいらっしゃったのですが、その言葉にヒントを得て作ったのが、全面木デッキで作られた屋根の上に、テーブル、椅子、キッチン、さらにシャワーまである、という住まいでした。8つある天窓の好きなところから屋根に上がることができるという変わった作りも、施主さんのライフスタイルや価値観にフィットしているからこそ、長く愛していただけるデザインになり得るものだといえるでしょう。
そんな、住み手の楽しい生活シーンが目に浮かぶような住まいであれば、愛着を持って暮らし続けることができるのではないでしょうか。

長く愛される住まいを追求する、手塚さんの家作りの考え方

長く愛することのできる住まいに出会うために、ご自身のライフスタイルをいかに豊かに広げることができるか、という観点でデザインを検討することも重要だと思います。私たちが住宅のデザインを手がけるときも、まず最初に施主さんのライフスタイルを理解することが大切な作業になっているんです。
以前、アウトドアをこよなく愛している施主さんがいらっしゃいました。私たちはこの施主さんの週末の過ごし方などを細かくうかがった末、家の中にいながらアウトドア感覚にひたれるような住まいのプランをご提案したんです。その家の特徴のひとつが、ふたつの壁面が引き戸のように開け放てるというものだったのですが、こうすることで室内がアウトドア空間に溶け込むかのような感覚を楽しめるんです。このプランはとても気に入っていただけたみたいですね。
また、「よく屋根の上でお茶をするんですよ」という施主さんがいらっしゃったのですが、その言葉にヒントを得て作ったのが、全面木デッキで作られた屋根の上に、テーブル、椅子、キッチン、さらにシャワーまである、という住まいでした。8つある天窓の好きなところから屋根に上がることができるという変わった作りも、施主さんのライフスタイルや価値観にフィットしているからこそ、長く愛していただけるデザインになり得るものだといえるでしょう。
そんな、住み手の楽しい生活シーンが目に浮かぶような住まいであれば、愛着を持って暮らし続けることができるのではないでしょうか。

今回、“人に結びつくデザイン”とは居心地のよさや豊かさ、質実剛健さを持ち合わせた“過不足のないデザイン”である、とお話いただきました。このことは、新しい住まいを考えるときはもちろん、普段使いの日用品を選ぶときにも参考になりそうです。愛着を持ち「受け継ぎたい」と思えるような住まいやモノとの出会いを、これからも大切にしていきたいものですね。

“いいデザイン”はどのように生み出されるのか

Name:
手塚由比(てづか・ゆい)
Profile:
1994年、手塚貴晴氏とともに手塚建築研究所を設立。住宅から公共建築まで、外部環境と一体化した空間設計を幅広く手がている。1997年「副島病院」でグッドデザイン金賞、「屋根の家」で第18回吉岡賞、JIA新人賞などを受賞。一周200mの楕円型の屋根上空間を形成する「ふじようちえん」では、アートディレクターの佐藤可士和氏と共同で建築を手がけるなど、気鋭の建築家として分野を超えたデザイン活動に挑戦し続けている。
手塚建築研究所 http://www.tezuka-arch.com/


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