vol.031 住まいに仕掛ける“光のマジック”
“光のマジック”で、心にやさしい住空間を

海に沈む赤く輝く夕日や、ライトアップされた夜景を目にしたとき、
心動かされる気持ちになったことはありませんか?
美しい景色への感動もあるでしょう。
しかし、これらを彩る“光”そのものが、
何か不思議な力を持っているのではないでしょうか。
今回は、中島龍興照明デザイン研究所を訪ね、
代表の中島龍興先生に光が持つ不思議な力についてお話を伺いました。
いったい“光”には、どんな“マジック”が隠されているのでしょう。

光の力を住まいに生かす、空間別・照明コーディネート術

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中島龍興照明デザイン研究所 中島龍興先生
“光”には、アクティブな心とリラックスする心をリズミカルに変化させたり、時間の流れを変化させる力がある。
夕陽を感じさせる温かい色の照明

まず最初に、“光”はどのようなメカニズムで私たちの心や体に影響をもたらしているものなのか、教えてください。

私たち人間は、朝日が出れば体が覚醒し、心はアクティブな状態になりますよね。そして太陽が沈む夕方になると、体は一日の終わりを感じて休息状態になり、心はリラックスする。こうした反応は、太陽のサイクルに合わせて心身をコントロールするよう脳内にプログラムされているために起こるものなんです。このプログラムが「体内時計」と呼ばれているものなのですが、こうした反応は太陽光に対してだけでなく、電灯の“光”に対しても似たように表れることがわかっています。

「体内時計」と“光”の関係を知っておくと、どのようなメリットがあるのでしょう?

たとえば朝食を食べるときは、自然光のようなさわやかな白い光で過ごし、夜、帰宅したあとはオレンジ色の暖かい光で過ごす。こうした照明の変化が、1日のうちに少なくとも2回あれば、オンとオフの切り替えがスムーズに行われて気持ちいい心のリズムが生まれますよ。逆に、こうした自然光のサイクルとかけ離れた光環境で生活をしていると、せっかちになったり、イライラしやすい傾向もみられるんです。

自然光のサイクルとかけ離れた光環境とは、具体的にどのような状況をさすのでしょう?

典型的な例として挙げられるのが、夜になっても昼間と同じような白い光を浴びつづけている、といった状況です。こうした光環境が続くとせっかちになるといわれるひとつの理由として、白い光を浴びていると時間が速く流れているように感じるのではないか、という研究報告があるんですよ。
その研究では、蛍光灯の白い光を浴びながら、時計を見ずに10秒数えてストップウォッチを押してもらうという実験が行われました。するとほとんどの被験者は、実際の時間が10秒を経過してしまったあとでストップウォッチを押したのです。一方白熱灯など、温かみのある光のもとでは、多くの被験者が10秒たたないうちにストップウォッチを押していたそうです。

“光”の環境が違うだけで、時間の感じ方にそんな大きな差が生まれるんですね!

そうなんです。この実験は“光”と生体反応の関わりを示すひとつの側面を示しているのに過ぎないのですが、蛍光灯の白い光を浴びていると時間が速く流れてしまう感覚になり、温かみのある光を浴びている場合は時間がゆっくりと過ぎていく感覚を得られるのではないか、とも考えられるわけなんです。
この実験から断言しきれるわけではありませんが、ひとついえるのは、白い光ばかり浴びているといつも急いでしまうような感覚になるし、温かみのある光ばかりを浴び続けているとずっとゆっくりしてしまう傾向があるだろう、ということです。どちらか一方に偏るのではなく、ふたつをバランスよく使い分けることが理想的なのではないでしょうか。仕事や勉強などを効率的に進めたいときは白い光、ゆったりとした時間の流れを楽しみたいときは温かみのある光といったように、“光”を変えれば、自分にとって心地いい時間の流れを作ることができるのではないかな、と思います。

日本人は、“光”によって四季の移ろいを感じ取る繊細な感性を持っている。

“光”とのつき合い方について考え直してみると、私たちの生活はもっと豊かなものになりそうですね。

そうですね。でも日本人はもともと、“光”とのつき合い方がとても上手 だった民族なんですよ。 能や茶の湯といった伝統文化は、“光”の陰影を楽しみ、そこから「幽玄」や「侘び」「寂び」といった美的感覚を感じ取るものです。こうした日本人の“光”に対する繊細な感性は、四季の変化がはっきりしているという風土的な特徴によって発達したのではないかと思うんです。 太陽光は1日単位で変化しているだけではなく、一年を通しても光の色味や強さなどが変化しつづけています。四季がはっきりとしている日本の場合は、太陽光の変化もはっきりとしています。そして、そんな四季の“光”の変化になじんでいる日本人は、本来、“光”のニュアンスのちょっとした違いにも敏感に反応する、高い感受性を持っていたのではないで しょうか。

今は違うというわけですか?

現代の日本人の多くは、一日中、蛍光灯の明るい光のなかで暮らしている傾向がありますね。こうした、一日のなかで光にあまり変化のない照明環境で暮らしていると、日本人が本来持っている“光”に対する繊細な感覚が失われてしまうと思うんです。
私たちの先祖は、“光”の陰影を楽しんで、そこから四季の移ろいに思いをはせたり「侘び」「寂び」を感じ取ったりしていました。これは“光のマジック”を楽しむ文化だったのではないでしょうか。私たちの住まいにも“光のマジック”を仕掛けて、心を躍らせたり、やすらぎを得たりといった変化に富んだ暮らしを楽しめるといいのでは、と思いますね。

時間の流れを速く感じる強い白い光がついた部屋
時間の流れをゆったり感じる温かい光のついた部屋 photo : TKO-M. architects
茶室に見る陰影の世界
観葉植物などにスポットライトがあたって壁に影が現れている
住まい”という舞台の上に、監督になった気分で“光のマジック”を仕掛けよう

それでは実際に、私たちの住まいに“光のマジック”を仕掛けるためにはどうすればいいでしょう?

ポイントは3つあります。
第1のポイントは、光源の色と高さに配慮をすることですね。
自然光の場合、日中は太陽が上の方にあって白い光を放っていますよね。それが夕暮れ時になると太陽の位置が下がり、赤くて温かみのある光になります。こうした太陽の位置と光の色を室内で再現するようなイメージで、光源の高さと色味が異なる照明を使い分けるといいですよ。
リビングやダイニングなどには、少なくとも3種類の照明を用意してみてください。そのうち、昼間の太陽のように天井から白い光を照らす照明がひとつ、夕日のように目線に近い高さから温かい光を照らす照明がひとつ、そしてもうひとつはさらに温かみがあり、まぶしさのない光を床面から照らす照明があるといいと思います。この3つの照明の組み合わせると、室内には7通りもの“光のシーン”が生まれます。生活のシチュエーションに合わせて、異なる“光のマジック”を仕掛けることができますよ。

なるほど。7通りもの“光のシーン”が生み出せれば、朝・昼・夜の変化だけでなく、そのときの気分に合わせてさまざまな照明コーディネートができそうですね。では、第2のポイントとしては、何が挙げられますか?

室内に美しい“影”を映し出すことですね。かつての日本人が“光”の陰影に芸術を見出していたことからもわかるのですが、“影”というものには人の心をグッと動かす力があるんです。観葉植物やオブジェなどの下から照明をあてると、シルエットが壁に浮かび上がって空間がドラマティックな雰囲気になりますよ。
ここでポイントとなるのは、“影”を作るための照明器具は目につかないところに隠すこと。“マジック”は仕掛けが見えないからこそ感動できるものであり、照明器具を見せてしまってはタネ明かしになってしらけてしまいますからね。

照明というと、“光”ばかりに目が行きがちですが、それによって作り出される“影”も重要な要素なのですね。それでは、第3のポイントは何でしょうか?

光源には蛍光灯に代表される白い光を放つものから、白熱灯に代表される赤みがかった光を放つものまで、いろんな色味のものが取りそろえられています。こうした色味の違った光源をいくつかストックしておくと、場面場面に応じて違う光を楽しむことができるようになるんです。
たとえば夏場は白い光を使って爽やかな雰囲気を出し、冬場は赤みのある光で温かい雰囲気を出すなど、季節によってランプを変えてみるのもひとつの手ですね。照明デザイナーになった気分でさまざまな光源を使い分けていくと、“光”に対する感覚も研ぎ澄まされていき、“光のマジック”をより楽しめるようになるのではないでしょうか。
住まいとは舞台のようなものです。主役はインテリアであり、照明とはそのインテリアを美しく引き立てる存在なのだと思います。ぜひ皆さんには、その舞台の“監督”になった気分で、住まいを楽しく演出する“光のマジック”を仕掛けていただきたいな、と思います。

中島先生に伺ったお話を通じて、太陽の光を生活の基軸としてきた人間にとって、“光”とは心と体の状態を大きく揺さぶる存在であることを再認識することができました。あるときは人と人との距離を縮めたり、またあるときは懐かしい感情を呼び起こしたりする不思議な力が“光”に宿っているのも、何となくうなずけますね。
“光”が私たちの心身にもたらす影響力を知っておくことで、より心豊かな毎日を楽しむことができるのだということを、今回のお話から教えていただくことができました。

知っておくと照明がさらに楽しくなる!光の基礎知識  〜光源編〜

光を放つもととなるランプ、つまり光源には、数多くの種類が存在しています。
そのなかでも、住まいの照明コーディネートをするうえで知っておきたい光源の種類を中島先生に紹介していただきました。

【タングステンフィラメント電球】
もっとも一般的な白熱電球。赤や橙色系の波長を持つ光線が多いため、温かみのある色合いを持つ光を発する。

タングステン電球/東芝ライテック

【タングステンハロゲン電球】
通称「ハロゲン電球」と呼ばれているもの。タングステンフィラメント電球と同じ白熱電球だが、タングステンフィラメント電球に比べて輝度(明るさ)が高い。写真はスポットライトとして使用されるダイクロイックミラー付きハロゲン電球。

ハロゲン電球/松下電器産業

【蛍光ランプ】
ランプ内で発生した紫外線がランプに塗布された蛍光物質を刺激して発光する。白色、昼光色、電球色など、色の種類が多いのが特徴。電球型、直管型、環型などさまな形のものがある。調光はできないものが多い。

電球形蛍光灯/松下電器産業

【LEDランプ】
発光ダイオードによって光を放つランプ。1600万色以上の色光を作り出すことができ、寿命が極めて長いことから、次世代の光源として注目されている。

LED電球ボール形/東芝ライテック
中島龍興(なかじま・たつおき)

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中島龍興(なかじま・たつおき)
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中島龍興照明デザイン研究所代表。1969年にヤマギワへ入社後、LDヤマギワ研究所、TLヤマギワ研究所の所長を経て、1998年に同研究所を設立する。日本照明学会専門会員、北米照明学会会員、日本インテリアデザイナー協会会員、照明文化研究会会員。文化女子大学、北海道東海大学、九州産

業大学非常勤講師。北京理工大学客員教授。主な受賞歴に北米照明デザイン賞、JID賞、SDA賞など。「明かりと照明の科学」「照明デザイン入門」(以上、彰国社)、「照明[あかり]の設計」(建築資料研究社)など著書も多数。

 

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