灯火の美 光の空間

照明デザイナーをささえる光

最近、海外のプロジェクトでそのデザインコンセプトを考えようとする時に「私が持っている財産は日本の伝統的な文化だ。だから日本の文化に取材すべきだ」と思うようになりました。

歳をとったからでしょう?なんて言わないでください。もともと私のやっている照明デザインという仕事は、アメリカで約50年前に成立し日本には30年前に入ってきた、いわば舶来の職業。そして、その流れを受ける日本人照明デザイナーである私が海外で他の国の照明デザイナーと何が違うのか?と問われれば、「私は日本人で日本の光の文化を背負っている」と言わざるをえなくなったのかもしれません。

このような昨今の状況もあって、私は日本の光の原点を探ることに時間を費やしています。今日は、そんな試行錯誤のなかから発見した凄い光をご紹介いたしましょう。それは平安時代から鎌倉時代にかけて作られた密教寺院のなかにあったのです。



密教とは?

密教についてご存じない人も多いと思うので(とは言っても、私も決して詳しくはないのですが・・・)、簡単にご説明いたしましょう。

密教は平安時代初期に日本に紹介された大日如来を教主とする仏教のひとつで、日本では空海が創始した真言宗と最澄の天台宗という2つの宗派があります。密教と聞いてピンとこなくとも、この2人の僧侶の名前と、それぞれの本山である高野山金剛峯寺と比叡山延暦寺は歴史の教科書で見かけたことがあるのではないでしょうか。

曼荼羅
画像提供:真言宗 臼杵山 天光寺(外部サイトへ)
密教という呼び名は何だか怪しげですが、これは信仰の場である寺院を険しい山間地に建立し修業を行ったことに由来します。また、仏教が発展する最後の段階で登場した一派ということもあり、教えが複雑、かつ難解なことでも知られています。そして、その難解な教えを一般の人々に知らしめるために、寺院にはとてもユニークな仕掛けをしてあるのです。

それは、ビジュアルを駆使するというプレゼンテーション技法です。複雑な内容であればあるほど、文字や言葉よりも、絵を使って説明されたほうが、人々はより容易に理解できるはずです。そしてさらに音や光という演出も加えて仏教の知識を全く持たない人をも密教の道へ引きつけ、導くという戦略がとられました。

いわゆる密教の世界観を示す曼荼羅(まんだら)はその絵の部分、護摩という小さな木の板を燃やしながら祈祷することは光の演出、読経の声はさながらBGMだったのです。



密教寺院は光の建築

さて、平安時代の密教というそれまでなかったカッコイイ仏の教えが広まったのは、何といってもお寺でのありがたいパフォーマンスのお陰だという説があります。確かに今でも感動するものです。たとえば、滋賀県大津市にある比叡山延暦寺の根本中堂という建築空間は、奥が深く窓もなく昼でも真っ暗な空間です。そして、その空間で加持祈祷という非常に感覚的な儀式が行われています。この空間に集まった全ての人は、恍惚と忘我の状態に陥って教えを感覚的に習得するのです。

調べてみると、平安時代以前に作られた寺院は、仏像を安置する本堂は非常に小さかったようです。したがって小さな窓から入る光でも内部空間は、それなりに明るくなってしまうのですが、密教寺院の本堂(先ほどの根本中堂)の規模は著しく大きいもので中は真っ暗になるように作ってあるのです。この光の演出空間は今でいうテーマパークのパビリオンのようなものかもしれません。昼間であるのに中は真っ暗で、そこで光と音によって、ここでしか体験することのできないありがたい時をすごすのですから・・・。

1000年も前の日本人が考えた光の演出空間が「密教寺院」なのです。この空間の考え方は世界の中では結構異端な発想です。西洋の文化は石の空間にいかに窓を開けるかという光の歴史だったのですから・・・。いずれにせよ、こういった文化を私たち日本人のデザイナーは大切にしなければならないと思うのです。
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コメント
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1. | 投稿者: KUMA (2010年03月20日)

こんにちは。今回もとっても興味深いことを知り勉強になりました。
照明デザインと日本の文化。なんでも深い洞察力というか思考というか、つきつめていくといろいろな発見があるものですね。
すばらしい内容でした。

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