みんなの住まい

部屋ナカに「庭」をつくる? 斬新マンションが生まれるまで。

新建築社と三井不動産レジデンシャルが開催する三井住空間デザインコンペ。

第9回となる今年度の最優秀賞は、tomito architectureの「庭が回る家」が選ばれました。部屋の中に庭をぐるりと巡らせるという、マンションの一室とは想像もつかないような大胆な設計を行った彼ら。どのようにしてこのアイディアを生み出したのか、横浜にある事務所にお邪魔して、お話を伺ってきました!

伊藤 孝仁さん
冨永 美保さん
高田 幹人さん

tomito architectureは、同じ大学院に通っていた伊藤孝仁さんと冨永美保さんが立ちあげた建築設計事務所。昨年からは高田幹人さんが加わり、コンペに応募したのだとか。まだみなさん20代という若さに驚かされました。「学生の頃からこのコンペの存在は知っていましたが、参加したのは初めて。ちょうど高田が加わったタイミングと合って、事務所としてすごくエネルギーが有り余っている時期だったので、挑戦することにしました」(伊藤さん 以下、伊)

「まずアイディアを三人で共有した上で、設計はみんなで考えながら、模型や細かい作業は高田と私、図面を描く作業を伊藤が担当しました」(冨永さん 以下、冨)

《審査員からのコメント》

『庭が回る家』では前室からサンルームまで回遊性のある“庭”でつながり、光と風が家の中をめぐる提案によって、豊洲の土地の良さが最大限に引き出されています。都心に近く利便な豊洲に居ながら味わえる、「植物を育ててお裾分けをする」ような開放感のある生活スタイルが、家族や友人はもちろん、このマンションや近接する他のマンションの方がたとも共有できそうと想起させるところが評価されました。

「庭が回る家」ができるまで

――テーマ「人のつながりを呼ぶ住まい」でまず思い浮かんだことは?

: 私は、設計対象がどんなに小さくとも、できる限り大きな関係性のなかで建築を考えたいと思っています。今回の場合、人だけに焦点を当てるのではなくて、社会的な広がりとか、街の中の環境とか、大きく視野を広げて外にあるものを招き入れようと。豊洲であれば風や光、都市の中の生態系や歴史にも想いを巡らせて、そういった大きなものと小さな住まいにどう関係をつくるかを念頭に置いて考えました。視野を広くして考えると、自然と人を招き入れる住まいになる予感というか、そういう確信があったんです。

: 私は、あるひとつの建築の登場によって、周囲の環境や人の意識にどんな変化が起こるかについて興味があります。大学時代、毎日豊洲に通っていて特に感じていたことは、高層マンションやビルが多く、海風も相まって、風がとても強くて雨の日にびしょびしょになってしまうとか、洗濯物を外に出せないとか。外部に対して、消極的になってしまいそうな印象を持っていました。

今回の住戸の提案によって、すこしでも自分の内側に外部と関わる部分があることで、外に意識が向くようなことを目指しました。緑が多く風が強いところは、とても豊洲らしいと思います。そんなライフスタイルを愛すことができたら、ゆくゆくは町の誇りにもつながるのではないかと思いました。

――課題テーマから、この特徴的な“庭”のアイディアに繋がったプロセスを教えてください。

: きっかけは私たちが設計活動を行っているこの建物です。ここの気持ちよさを再現しようというのが最初に思い浮かんだイメージでした。ここに事務所をかまえるまでは「庭の良さ」というのはあまり感覚化されていなかったのですが、暮らしてみたら、部屋に来たらまず窓を開けて、雨どいの部分に洗濯物を干して……たまに外でご飯を食べたり模型作りなどの作業をする事もあります。生活スタイルがガラリと変わった経験の中に「あの瞬間、凄く良かったな」っていうことがいくつもあって。どうしてあれが良かったんだろうって掘り下げていくことで、今回の提案に繋がりました。風や光といった、自然環境とともに暮らす心地よさを身体で感じたからだと思います。

アイディアの原点となった、tomito architecture事務所。

: 住まいにあるべき庭は屋外でなくても実現できるのではと考えた時、水や風、光という要素が思い浮かびました。私自身、家は“風通しの良い場所”であるべきだと思っています。“風通しの良い”とは風が抜けていくという意味と、人間関係が開かれているという意味があり、今回の提案はその2つの意味を同時に考えてみるという試みだったと思います。

高田さん(以下、): 私は、食をキーワードにすることで、人のつながりを考えたいと思いました。事務所でもよく3人で一緒に料理をして食べるのですが、そこでコミュニケーションが生まれるという経験もあって、まずは食を起点にディスカッションを始めました。さらに「作って食べる」というところからスタートしたら面白いんじゃないかと思って、「植物を育てる」という言葉が出てきました。

: やはり一番アイディアが生まれると感じるのは、人と話したり議論している時ですね。今まで思っていなかったような事が自然と口から出たりして。会話や対話は重要だなと実感しています。

――制作中に楽しかったこと、気に入っている箇所を教えてください。

: 玄関からリビングまでの抜け感とか、部屋に入ってきた時にどういうシーンが見えるか、ということを考える時がとても楽しかったですね。リビングと一体化している寝室の高さを工夫して、ベッドから起きあがると目線の先にブワッと庭の様子が広がるとか、そういうシーンの設定を意識的にしています。

: 以前泊まったフランスのホテルでは、ブドウ畑越しに街が見えるようにベッドの高さが工夫されていて、「リッチな空間ってこういうことか!」と衝撃を受けました。この部屋はマンションの2階に作られるのですが、敷地内に作られる庭園が見え、その先に豊洲の街が見える想定です。部屋の中から外まで、層状に見通せると空間的な広がりも感じてもらえると思います。私が好きなのは土間にあるキッチンです。背後にベランダがあって、外に気軽に出られるという位置関係が面白い。炊事の水が余ったら植物の水やりに使えるとか、想像すると楽しそうで。

: 模型にある植物は、陽が当たって欲しいもの、あまり陽が当たらない方がいいもの、湿度がどれくらい必要か、水やりの頻度など、環境との相性を考えながら、配置しています。ハーブはここ、きゅうりはここに置いたら美味しく健やかに育つだろうなとか考えながら(笑)。それから、寝室、リビング、庭、バルコニーと、階段状に層になって連なっているところも気に入っています。

――実際に住まわれる方に、どんな風に暮らしてもらいたいですか

: 庭をテーマにしていますが、ガーデニング好きな方、植物が好きな方向けとは考えてはいません。今の住まいでは植物を育てたりしていない人が、ここに住むことで、自然と気分が良くなって植物を置きたくなる……となるのが理想です。そういうきっかけに満ち溢れたこの空間で、性格さえも変化していったら良いなと思うんです。私たちも、今の事務所に移ってから、生活のリズムややりたいことが変わってきました。環境が人のライフスタイルに影響してくるのだなと実感しましたし、建築をする上でも自信につながりました。

: 住む人が、この家に住むことによって、外に対してアクティブになってくれたらいいなと思います。豊洲は海が近かったり、緑が多かったり、恵まれた外部がたくさんある環境だと思うので。この土間の部分は、誰かの部屋ではなく、誰のものでもない空間です。そういう空間が家の中にあるのは大事だなと思っていて。何かしようと思った時にすぐ使えるし、使う人の色が素直に映しだされて、色んな表情になってくれると良いなって。

――これからの住まいは、どんなふうに変化していくと思いますか?

: 高層マンションに絞って言うと、“風通しの良い”有機的な建物になったら良いなと思います。窓や玄関をもっと気軽に開けられる場所になれば、人のつながりももっと自然と生まれてくるはずです。

: 人のつながりということを考えると、住んでいる人はどんな人で、どんな暮らしをしているのか、外部に個人を表出できる仕組みがあることは大切であると思います。高層マンションでも「人が見える」仕組みというのを考えていきたいですね。

: 僕の祖母の家は築80年なのですが、入った瞬間その歴史の重みを肌で感じることができます。住む人の成長がリンクして実感できるような住まいを作りたいです。

苦労した点を尋ねると「今回は珍しく、あまり悩まずに終始楽しく提案ができました。最初にビジョンを共有して、その後しっかり役割分担したからか、進め方もスムーズで」と答えてくれたtomito architectureのみなさん。模型を指さしながら、楽しそうに語る3人の笑顔がとても印象的でした。

今回の受賞作品は「パークホームズ豊洲 ザ レジデンス」にて実際に建設、販売される予定です。どんな形にでき上がるのか、完成が楽しみですね。